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2009年2月1日日曜日

「挨拶の発達」

皆様の育児の参考にしていただけたらと、 『育児のヒント』を記載しています。
今回は、 東京大学大学院教育学研究科教授 秋田喜代美先生です。

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 先日、あゆのこ保育園に研修にうかがった時です。先生が「おじゃましまーす」と声をか けて保育室に入っていこうとされたら、部屋の中の女の子が「じゃまだよー」と応答し、私 たちの笑いを引き出していました。いろいろな言葉をまねて使ってみたくなる時期の子ども の応答をとてもよくあらわしています。そしてその子もまた回りが彼女の返答を、注意した り指導するのではなくその彼女の心をうけいれてくれたのを嬉しく思ったのでしょう。にこ やかな笑顔でした。このほんの一瞬のできごとは実は言葉の言い方はおもしろいですが、部 屋に入ってくる人にきちんと応答し相手にむかってやりとりしている点ではこの子はコミュ ニケーションの基本ができ挨拶ができているということもできます。
 
 「挨拶」の「挨」の文字には心を開く、「拶」には相手に迫るという意味があると以前にあ る方からうかがったことがあります。そして自分から進んですることで相手との関係が作ら れていくことを意味しているとも言えます。大人になっても「あの人は挨拶もできない」と いった表現が使われることもありますが、それは形式やマナーの問題ではなく、心を開いて 関わろうとし、またそれに応じる心が育っているかという問題であると思います。ある園に うかがった時、ある外国からこられた保護者の方が子どもが担任の先生にきちんと挨拶をし なかったことで子どもを叱っておられました。目上の人を大事にする文化の中で育った保護 者の方からみるとそれは当然のことのだったのだと思います。それをみてその園の保育者の 方たちが、「日本の保護者の中にはこのあたりいい加減にすませてしまっている人もいるけれど学ぶべきことかもしれませんね」と話されておられました。 
 
 挨拶において育てたいこと、発達に伴って学んでほしいことはどのようなことでしょう。0 後半頃以後の乳児さんたちは「どーも」「ばいばい」「おやすみ」などの言葉を保護者や保育者に かけられると動作で応じたり、自分からその動作をして相手に働きかけたりします。また「ご挨 拶あそび」などの絵本を子どもは大好きです。大事なのはこの時期からきちんと目線や姿勢で子 どもは挨拶の方法を学んでいます。それが発達と共になんとなく形だけになっておざなりにむし ろなっていってしまうことがあるということです。まなざしや笑顔、心のふれあいが挨拶の起点 でしょう。「ただいま」「おかえり」なども家族の中でどのようにかわされているでしょうか。あ る調査によれば子ども達は「ありがとう」や「おはよう」は3歳ころには言えるようになってい るようです。そこから状況に応じてさまざまな言い回しや挨拶における丁寧な言葉の使い方も学 んでいきます。ある園で園長先生が「おはようございます」と挨拶すると「おはよう」と子ども が返事をします。そして握手をして入っていきました。これをみていたある人が3,4歳だったら これで良いし、5歳くらいになったら「おはようございます」と「おはよう」ということがなんと なく使い分けが感じられるようになるといいねと話されていました。「いただきます」「ごちそう さま」も「生物の命をいただく」という意味からきている仏教の言葉ですが、食物や料理を作って くれた人への感謝のきもちがこめられたことばだということがどこかで伝わるとよいと思います。 大人も含め挨拶はコミュニケーションの基本です。たかが挨拶、されど挨拶、保護者自らわが子 とのやりとり、保護者間や保育者の先生とのやりとり、ふりかえってみてはどうでしょう。 



秋田喜代美(東京大学大学院教育学研究科教授)